Classi開発者ブログ

教育プラットフォーム「Classi」を開発・運営するClassi株式会社の開発者ブログです。

データAI部で3年間続けた輪読会の話

こんにちは!開発本部で本部長をしている id:tetsuro-ito です。実はデータAI部というデータ系組織の部長も兼任しています。今日はデータAI部で3年ほど続けた輪読会の話を紹介します。 3年間の中でさまざまな環境の変化や人の入れ替えがありながら、6冊の本を輪読しました。最近ではメンバーも増え、個々人の興味関心もばらついてきたことから、いったん定期開催してきた輪読会の開催をストップし、また必要に応じて読みたい本が登場した際に再開するというアイドリング状態になりました。そういうわけで、このエントリは振り返りの意味合いも込めています。

ちなみに過去のブログでもデザイン組織であるUXデザイン部と共同で開催した輪読会の記事も書いていますので、参考にリンクしておきます。

リモートでPeople+AI Guidebookの輪読会をやった話

輪読会の開催背景

そもそもデータAI部でなぜ輪読会を開催しようとしていたかを少し振り返ります。社内のドキュメントを紐解くと、輪読会は2019年7月から開催をしていました。 データAI部は2018年6月に前身であるAI室として誕生し、4名のメンバーからスタートしました。その後、採用によりメンバーが増加したり、立ち上げた室長が別の部署に異動したりと、黎明期ならではの激動の時期を歩んでいました。そうした状況であったため、チームとしてあまり機能していたとはいえない状況でした。加えて、全員中途採用で入社したメンバーの集まりであったため、その知識やスキルもばらつきが多い状況でした。

そこで、データAI部のインプットやコミュニケーションの場として、輪読会を開催することになりました。

輪読した本の一覧

これまでに輪読した本の一覧とかかった期間をリストで紹介します。 ほとんど決め事はなかったのですが、ゆるい制約として、データAI部の業務に役立ちそうなもの、一人で読むと心が折れてしまいそうな重厚なものという選定条件を設定していました。一人で読み切れるものは各自で読めば良いので、全員で読むということを考えると、それなりに骨が折れる内容の本の方が良いだろうと思ったからです。この選定条件は良いストレッチをかけてくれたので、良かったと思います。

タイトル 期間 参加人数
Pythonによる数理最適化入門 3ヶ月 7人
プログラミングコンテスト攻略のためのアルゴリズムとデータ構造 6ヶ月 11人
行列プログラマー – Pythonで学ぶ線形代数 1年 11人
People + AI Guidebook 3ヶ月 13人
データ指向アプリケーションデザイン 6ヶ月 9人
Real World HTTP 9ヶ月 17人

輪読する本の選び方

輪読会の終盤の時期に差し掛かると、次の選定本を何にするのかという議論が始まります。 そこで、メンバー各々が輪読会で読みたい本をピックアップし、それを輪読会の時間を使って議論します。 候補の対象となる本の冊数は優に30冊を超えるのが常です。データAI部のメンバーがそれぞれの本の良さをPRし、全員で投票を繰り返します。そこでもっとも票を集めた本が次の輪読会の対象本として選定されます。

データ指向アプリケーションデザイン選定時の投票リスト

この方式では選定までに少し時間がかかりますが、データAI部のメンバーがどんな本に興味関心を持っているか、最近はどんな本が話題になっているかなどが可視化され、選定本に選ばれなくても、これをきっかけに読んでみたりなどの副次的な効果もありました。

輪読会の進め方

読む本を決めたら、その次の輪読会までに全員が本を購入し、ざっと全体を俯瞰しておきます。そうすることで、その本がどんな内容なのか、自分はどのあたりを担当したいのかなどの目処が立ちます。 そして、業務時間内の毎週決まった時間を固定枠として確保し、参加者全員の予定を入れておきます。業務などで参加が難しい場合は気軽に欠席可能、自分が担当であっても気軽にリスケが可能というようなカジュアルなテイストの運営を心がけていました。

最初の頃は挙手制で担当したい章や節を割り振り、回していましたが、最終的にルーレットで担当者をランダムでアサインする方式へと変わっていきました。

担当決めのルーレット

担当範囲の決め方

担当範囲は読む本の内容によって、柔軟に設定すると良いです。私たちも当初、1章単位で担当するという粒度で運営を行っていました。しかし、本によって章の内容の濃淡はさまざまであることがわかりました。場合によっては何週間も同じ人が担当することになってしまい、心が折れて輪読会の継続のピンチに陥ってしまいます。 そのため、私たちは一人当たりの担当範囲を広くするのではなく、章内の節を2節担当するという方式で、細かいサイクルを回すようになっていきました。 「行列プログラマー」を1年かけて読んだ際に、進めるのに非常に苦労したため、こうしたやり方を編み出しました。これはなかなか良い方法だったなと、今振り返ると思います。

こまめなサイクルと振り返り

初回で全員分の担当範囲を割り付け、輪読会を実施した後に、KPTのフレームワークを用いて、進め方についての振り返りを行いました。

行列プログラマー輪読時の中間振り返りのまとめ

このように通常のソフトウェア開発でよく行われる仕組みを輪読会にも応用することで、円滑な輪読会の運営を実現できました。 読み始める前では、どうしても内容の濃淡や章や節の構成、難易度などがわからないので、担当が一巡した頃に進め方の振り返りをして、やり方を変えていくという方法はとても良い効果があったと思います。

チームビルディングへの効能

輪読会を開催する前はデータAI部のメンバーの集まりは週に一度の定例会で、自分の業務の進捗報告や困っていることの相談をする場だけしかありませんでした。当時はコロナの前でもあり、毎日出社をしていたことやメンバー同士の席が近かったことから、気軽に雑談や相談ができていたため、それほど困ることはありませんでした。しかし、チームの連帯感という点ではやや欠けている部分もありました。 そこで、輪読会において、共通の目的に対して役割分担をし、意見を交わしながら進めていくような擬似プロジェクトとしての役割も持たせていました。普段の業務とは異なる性質のものなので、雑談や豆知識なども共有しやすい空気ができました。挫折せずにやり切る習慣も少なからず作れたのかなと思います。 また、本の内容によってはソフトウェアエンジニアやデザイナーをゲストとして招待し、一緒に進めていくことで、自分達の専門外にいるメンバーの解釈の仕方や物事の捉え方を認識できたこともあり、チームの中だけでなく、チーム外メンバーへの理解の促進にも一定の効果があったように思います。 前述したデザイナーとの共催の輪読会では振り返りにmiroを使い、毎回ワークショップ形式で読み進めながら、その内容をグラフィックレコーデイングにまとめるなど、データAI部のメンバーだけでは絶対に取り入れないだろうなというツールややり方にもチャレンジできました。 2020年以降はリモートワーク前提の働き方にシフトしたため、今までのやり方をUnlearnして、オンラインでの輪読会はどのように行えば良いかなどの試行錯誤もでき、非常に良い体験となりました。

オンライン/オフラインでの特性

元々オフラインで輪読会を開催していたこともあり、最初は会議室に集まって発表者がプレゼンテーションを行うスタイルでした。最初は数理最適化の本を輪読したこともあり、数式や図などを説明する際にはホワイトボードを用いてスムーズに行うことができました。逆にPythonコードを説明する際はプロジェクターでエディタなどを表示して共有していましたが、あまり体験として良いものではなく、各自が共有されたコードを手元で確認しながら内容を聞くというものでした。

途中からオンラインでの輪読会の運営に移行しましたが、この特性が真逆となって跳ね返ってくることがわかりました。オンラインの場合、ホワイトボードがないため、数式や図をサクッと共有したい場合のソリューションがなく、非常に苦労しました。オンラインでのホワイトボードなどもいくつか試してみましたが、オフラインのホワイトボードと比較すると、体験が悪く、徐々に利用しなくなってしまいました。

一方、良い面もあります。先ほど説明したコードの共有の部分ですと、自分のPCの画面を共有することになりますので、オフラインのケースよりも圧倒的に体験が良くなりました。 加えて、本を選定するときに電子本の有無はそこまで大きな理由ではなかったのですが、オンラインでは画面が共有できるため、電子本を所持しておくと、該当の記述を共有しやすく、最終的には多くのメンバーが画面を2分割し、一つの画面に本の担当箇所、もう一方の画面にesaにまとめた自分の説明用資料を共有するスタイルが主流となりました。

輪読会に限った話ではありませんが、オンラインの輪読会の場合、参加者の反応などがわかりにくいケースが多く、発表者のモチベーションが下がってしまうことがあります。特にオンライン時での開催は聴衆のスキルが重要となり、発表者が説明している時の相槌やチャットによるリアクション、自分の知っている他の文献の共有などの輪読会を盛り上げていくためのフォロワーシップが非常に重要であることも痛感させられました。このスキルはオンラインMTG全般で役に立つため、良き学びとなりました。

さいごに

企業内で輪読会を開催するのが難しいという声はよく聞きます。しかし、ここまで紹介してきたように、本の知識をインプットするだけでなく、メンバー同士の交流を促せたり、チームビルディングという観点でも良い効果が期待できる取り組みだということがわかりました。私たちは3年間で6冊読み切ったことで、どんな技術書でもみんなで読みきれるという実感を得ることができました。 一方で同じような取り組みを継続して行うことでの惰性感のようなものも生まれてきたため、一度取り組みをストップし、改めて必要なタイミングで再開する意思決定をしました。 リモートワークが中心となった働き方の中で、横のつながりや斜めのつながりを作るという目的でも、輪読会はとても良い効果を期待できます。この記事がこれから輪読会を開催してみたいと思う方の参考になれば、筆者としては嬉しい限りです。

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